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熊本地方裁判所 昭和47年(ワ)397号 判決 1975年1月29日

原告

加野佳則

ほか二名

被告

熊本市

主文

1  被告は原告加野佳則に対し、金一四、四五六、〇〇〇円および内金一三、一五六、〇〇〇円に対する昭和四五年六月二六日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を、原告加野達夫、同加野美代子に対し、各金四四〇、〇〇〇円および内金四〇〇、〇〇〇円に対する昭和四六年六月二六日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え

2  原告らのその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを五分し、その三を原告らの、その余を被告の各負担とする。

4  この判決第1項は仮に執行することができる。

事実

(請求の趣旨)

被告は原告加野佳則に対し、金三五、八九〇、〇〇〇円および、うち金三二、八九〇、〇〇〇円に対する昭和四六年六月二六日から支払済に至るまで年五分の割合による金員、原告加野達夫・同加野美代子に対し各金一、一〇〇、〇〇〇円および、うち各金一、〇〇〇、〇〇〇円に対する昭和四六年六月二六日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

(請求の原因)

一  原告らの身分関係

原告加野達夫・同加野美代子は夫婦であり、原告加野佳則は右両名の二男である。

二  事故発生の状況

原告加野佳則は、昭和四六年六月二五日午後八時ごろ原動機付自転車(熊た九九六二)を運転して、熊本市市道段山町島崎町線を、島崎方面から段山方面に向けて、時速三〇キロメートル位の速度で進行中、熊本市島崎町七一一番地先島崎カトリツク教会前付近の路上にさしかかつた際、当時その付近に数か所に亘つて点在していた同市道上の直径三〇ないし四〇センチメートル程度、深さ約五ないし最深部一〇センチメートル程度の道路陥没部分に連続して落ち込んだため、ハンドルをとられて運転の自由を失い、急にアクセルをふかせた状態となり、そのままセンターラインを越えて道路の右側部分に入り込んだうえ、同所七一一番地ラーメン屋吉田真和方家屋のモルタル壁に車もろとも激突して、右道路上にたたきつけられ、よつて脊髄損傷・下顎骨骨折・肺損傷等生涯回復の見込みのない重傷をこうむつた。

三  責任原因

本件事故現場は、熊本市市道上であり、右道路の設置管理責任者は被告熊本市であるところ、本件事故の発生は被告の右道路に対する設置管理に瑕疵あることによつたものであり、よつて、被告は国家賠償法第二条第一項の規定に基づき、賠償責任を負うものである。すなわち、本件道路は、アスフアルトで舗装された道路であるところ、本件事故当時本件事故現場はもちろんのこと、付近一帯に亘つて随所に舗装が破れ、そのため直径三〇ないし四〇センチメートル程度、深さ五センチメートルから最深部一〇センチメートル程度の陥没部分があちこちにできており、道路通行上非常に危険な状態にあり、道路が通常備うべき安全性を全く欠くに至つていた。

四  原告加野佳則の損害合計金三二、八九〇、〇〇〇円。

(一)  受傷の部位・程度・加療の経過

1 原告佳則は、本件事故によつて脊髄損傷・顔面挫創・下顎骨骨折・肺損傷等の傷害を受け、事故後直ちに熊本市段山本町済生会熊本病院に収容され、以来昭和四七年四月一一日まで同院において入院加療を受けた結果、頭部、胸部の外傷は軽快したが、脊髄損傷による乳線以下下半身の麻痺症状は持続したまま回復しなかつた。

2 しかしながら、原告佳則は、なお一縷の望みを託して、昭和四七年四月一三日水俣市立附属湯之児病院に転医し、以来現在に至るまで同院において入院加療中であるが、現在も乳線(第五胸髄)以下の下半身は、知覚・運動機能とも完全に麻痺しており、常時全身管理を要する状態で、右症状は生涯回復の見込みはない。

(二)  入院治療費金二、〇一七、二一〇円。

1 昭和四六年六月二五日から昭和四七年四月一一日まで、済生会熊本病院 金九二二、八八五円

2 昭和四七年四月一三日から昭和四八年九月三〇日まで、水俣市立附属湯之児病院 金一、〇九四、三二五円

(三)  付添費金三二七、二〇〇円

済生会熊本病院入院中の付添費金三二七、二〇〇円

イ 昭和四六年六月二五日から昭和四七年二月一三日まで、日額一、二〇〇円の二三四日間 金二八〇、八〇〇円

ロ 昭和四七年二月一四日から同年四月一一日まで、日額八〇〇円の五八日間 金四六、四〇〇円

ハ 原告佳則は、乳線以下の下半身が完全に麻痺しているため、自力では日常生活の動作も全くできないため、右入院中付添人による看護を受けざるを得ず、しかも終日不断のそれを要するところ、度重なる出資による手元不如意の事情もあつて、右入院期間中はその母原告美代子において付添看護に従事した。

しかして、美代子は、右のとおり昭和四六年六月二五日から昭和四七年二月一三日までは終日二四時間これに従事し、その後は午後六時から翌日午前一一時過までこれに従事したところ、右美代子に支払うべき付添費は終日二四時間これに従事していた間は少なくとも日額一、二〇〇円が、その後は少なくとも日額八〇〇円が相当である。

(四)  入院諸雑費金三五八、二〇〇円

昭和四六年六月二五日から昭和四九年九月三〇日まで、日額三〇〇円の一、一九四日間。

(五)  逸失利益金二五、一九〇、〇〇〇円

1 原告佳則は、昭和三〇年三月二〇日生まれの本件事故当時一六才の健康な独身男子で、熊本第一工業高等学校に在学していたものであるが、本件受傷により就学はもちろんのこと、終生就労不能となり、左のとおり得べかりし収入を失なつた。

イ すなわち原告は、本件事故がなければ右高校を卒業し、一八才に達した昭和四八年四月から六七才まで四九年間就労可能であり、この間少なくとも一般労働に従事して収入をあげることができたはずである。

ロ そして労働省労働統計調査部編賃金構造基本統計調査によれば、新制高校卒全産業労働者の男子労働者全年令平均賃金は、年額一、五四二、二〇〇円(昭和四八年)であり、原告も就労期間中それと同程度の収入を得ることができたはずであり、その総額は七五、五六七、八〇〇円に及ぶところ、就労不能のため両親の損害をこうむつた。

しかして、右総額からライプニツツ式計算法により、年五分の割合による中間利息を控除した現価は、二五、一九〇、〇〇〇円(一万円未満切捨)である。

右算出の基礎は、別紙のとおりである。

(六)  慰謝料金五、〇〇〇、〇〇〇円

原告佳則は、本件受傷による乳線以下の下半身麻痺のため、日常生活の起居動作もおもうに任せず、両便・食事・洗面・更衣等の一切をあげて他人の介護に依存せざるを得ず、仮に春秋に富む生涯を床上に横たわつたまま、あるいは車椅子に座つたまま暮し、就学・就職・結婚・育児等一切の社会生活を断たれ、終生死にまさる苦悩と絶望の日々を過さなければならない。また、今後如何ほど入院加療にはげめば退院できるのかの見とおしもたたない状態である。この間の支出も多額なものが予測される。

この原告の精神的苦痛金銭的負担をつぐなうためには、少なくとも頭書金額が相当である。

(七)  小計金三二、八九〇、〇〇〇円

以上(一)ないし(六)の合計は、金三二、八九二、六一〇円であるが、一万円未満を切り捨てると、金三二、八九〇、〇〇〇円となるので、これを原告加野佳則の損害として請求する。

五  原告加野美代子の損害

慰藉料金一、〇〇〇、〇〇〇円

原告美代子は、原告佳則の母であるところ、右佳則の受傷によつてこうむつた精神的苦痛は、右佳則を失なうことに勝るとも劣らぬ程甚大なものである。すなわち、原告美代子は、前記のとおり右佳則が済生会熊本病院に入院中は、一〇カ月に亘り毎日同人の傍において介護に従事していたものであるが、この間日常生活の起居動作を全く絶たれたわが子を日夜眼のあたりにして受けた母の苦しみ、そして終生回復の見込みのないことを告げられ、終生この子と共に苦難の道を歩まねばならない母の苦しみは、筆舌に尽しがたいものがある。この苦しみは、金銭をもつて到底補い得べきものではないが、金銭をもつて補うとすれば、最少限に評価しても頭書金額相当である。

六  原告加野達夫の損害

(一)  慰藉料金一、〇〇〇、〇〇〇円

原告加野達夫は、原告佳則の父であるところ、わが子の受傷によつてこうむつた精神的苦痛は、口には出さないものの母の苦しみに勝るとも劣らない。さらに、原告達夫は、株式会社サニーに勤務し、月額七〇、〇〇〇円程度の収入を得ているものであるが、右収入をもつてしては、原告佳則の治療費等を捻出すべくもなく、右佳則の治療費等を捻出すべくあちこちとかけまわる様は、はた目にも気の毒な程である。

父の苦しみも又金銭をもつて償ない得べきものではないが、金銭をもつて償なうとすれば、少なくとも頭書金額が相当である。

七  原告らは、本件損害賠償の支払を被告に求めたが、被告は任意にこれを支払う意思はなく、かつ事案も複雑のため、やむなく本訴の提起を弁護士である原告ら訴訟代理人に委任し、その費用・報酬として、認容額の一割に相当する金員を支払うことを約した。

八  よつて、原告加野佳則は、弁護士費用・報酬を除く右損害の合計額金三二、八九〇、〇〇〇円およびこれに対する弁護士費用・報酬三、〇〇〇、〇〇〇円の合計額金三五、八九〇、〇〇〇円の、原告加野美代子・同加野達夫は、右損害の合計額各金一、一〇〇、〇〇〇円の、各支払いおよび弁護士費用・報酬を除く各金員(原告佳則は三二、八九〇、〇〇〇円・原告美代子・同達夫は各金一、〇〇〇、〇〇〇円)に対する、いずれも本件事故発生の翌日である昭和四六年六月二六日以降支払済まで、民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(請求の趣旨に対する答弁)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

(請求の原因に対する答弁)

一  請求原因第一項は認める。

二  同第二項のうち、原告ら主張の日時に、その主張の単車で、その主張の場所において事故が発生し、原告加野佳則が負傷したことは認めるが、受傷の程度は知らない。その余の点は否認する。もつとも、事故発生当時事故発生場所付近の道路に長さ約四〇、幅約三〇、深さ四センチメートルの破損箇所一個が存在していたことはあるが、原告らの主張によれば、本件事故は右破損個所によつて惹起されたものでないから、右破損箇所と本件事故との間に因果関係はない。本件事故は原告加野佳則のスピードの出し過ぎによる自損行為である。

三  同第三項のうち、本件事故が熊本市道上で発生し、その設置管理者が被告であることは認めるが、事故現場付近の破損箇所は被告主張の前記一箇所のみであり、その他に原告ら主張のような瑕疵は存しなかつた。

四  同第四項のうち、(一)の点は知らない。(二)ないし(四)の各支出があつたことは認める。(五)の逸失利益の計算基礎および数額は認める。(六)は争う。

五  同第五、第六項は争う。

六  同第七項は認める。

(過失相殺の抗弁)

かりに、被告主張の前記市道上の破損箇所が本件事故との間に因果関係があるとしても、右破損箇所は原告加藤佳則の運転する単車の進行方向の道路中央より右側にあつたから、同原告が右破損箇所に乗入れて事故を起したとしても、それは同原告が道交法に違反して右側通行をしたものであるから、同原告の過失は損害額の算定につき斟酌するべきである。

(抗弁に対する認否)

抗弁は争う。

(証拠関係)〔略〕

理由

一  請求原因第一項は、当事者間に争いがない。

しかして、原告加野佳則が昭和四六年六月二五日午後八時ごろ原動機付自転車(熊た九九六二)を運転中、熊本市島崎町七一一番地先島崎カトリツク教会付近において、車もろともラーメン屋吉田真和方家屋のモルタル壁に激突して転倒し、負傷事故を起したことは当事者間に争いがない。

二  そこで、本件事故の原因について検討する。

(一)  (事故現場付近の道路状況)

原告らは、本件事故は当時事故現場付近に数か所に亘つて直径三〇ないし四〇センチメートル、深さ約五ないし最深部一〇センチメートル程度の道路陥没部分が点在しており、原告加野佳則が運転する原動機付自転車(以下、単に事故車という)が島崎方面から段山方面に向けて進行中右陥没部分に落ち込んだことが事故の主因であると主張し、被告はこれを争うので、まず右主張の道路の陥没個所が存在していたかどうかについて調べてみる。

〔証拠略〕を綜合すれば、本件事故発生当時における熊本市市道段山町、島崎町線の路面状況は、簡易舗装で、破損による大、小の窪みがあちこちに点在する悪路であつたこと、本件事故現場付近においても、島崎から段山方面に向つて中央線より左側の吉村ハツ方前からカトリツク教会付近にかけて、直径三〇ないし四〇センチメートル、窪みの深さ約五ないし一〇センチメートル程度の円型の破損個所が三、四箇所点在していたことが認められる。

右認定に反する被告挙示の証拠は、次の理由によつて措信しがたい。すなわち、乙第一、第二号証は、事故発生の翌日である昭和四六年六月二六日午前九時に事故現場付近を撮影したものとして提出され、右乙号証によれば、本件事故現場付近には、原告ら主張の前記破損箇所は存在せず、前記カトリツク教会付近道路に島崎から段山方面に向つて中央線より右側に円型の窪みが一箇所認められるに過ぎないようにみえる。そして、証人江上哲也、同福田幸人も、これに符合する証言をしている。しかしながら、乙第一、第二号証の撮影時刻に関して、江上証人は、その作成者として右乙号証には午前九時と明記していながら、原告ら代理人の問に対し、午前九時三〇分頃と述べ、さらに、乙第二号証に写されている自動車の影から推して撮影当時太陽は真上に照つていたのではないかとの問には明確な答えをせず、遅くとも午前一〇時頃には撮つていると証言し、福田証人も、これとほぼ同趣旨の証言をしていたところからすれば、本件道路の舗装状況を証する最も重要な証拠である右乙第一、第二号証の撮影時刻が瞹昧であるのみならず、原告ら主張の道路の破損部分の存在を認定した前項各証拠(前記後藤、原口両証人の証言中には午前九時前に被告係員が道路の破損部分の補修をしていたとの証言もある)に照らせば、道路補修前の事故現場付近の状況が乙第一、第二号および江上、福田両証人の証言の如く、前記一箇所の窪みのみで、その他の部分とくに島崎から段山方面へ向つて左側の本件道路現場付近に破損箇所がなかつたとは到底認め難い。また、証人藤田恒の証言も右認定を左右するに足りない。

(二)  (本件事故の状況)

前記市道の事故現場付近には、前記認定のとおりの道路破損箇所が事故当時存在していたと認められるところ、前記塚本証人の証言によれば、原告加野佳則は事故直前前記市道を島崎から段山方面へ向けて中央より左側を疾走していたことが認められるから、事故車が落ち込んだのは原告ら主張の三、四箇所にわたる破損箇所と推認するのが相当であり、右認定に反する前記藤田証人の証言は、証言自体瞹昧な部分が多く必ずしも措信しがたく、乙第七号証および前記吉田証人のこの点に関する証言も前記認定を左右するに足りない。

しかして、前記塚本証人は、同原告運転の事故車は事故直前証人の右側をかなりの速度で疾走し、少なくとも時速三〇キロメートルを超え、五〇キロメートル位の感じで走つた旨証言し、また、同原告本人は事故車の出した速度はわからないと答えながらも、五〇CCの原動機付自転車の最高速度は毎時五〇キロか六〇キロの間ではないかと思うと供述しているところを併せ考えれば、事故車は時速三〇キロをかなり超えた速度で疾走していたと認められ、同原告本人の供述中右認定に反する部分は措信しがたい。そして、事故車は排気量五〇CCの第一種原動機付自転車であることが同原告本人の供述によつて明らかであるところ、道路交通法二二条、同法施行令一一条によれば、事故車の最高制限速度は毎時三〇キロメートルであるから、同原告は法定速度を超えて事故車を運転したといわねばならない。

かくして、本件市道の前記破損箇所のいずれかに高速度で疾走した事故車の前輪が落輪したため同原告は操縦の自由を失い、アクセルをふかした状態となつて道路の中央線を越えて逸走し、ラーメン屋吉田真和方家屋のモルタル壁に車もろとも激突して、道路に転倒したことが〔証拠略〕によつて認められる。

(三)  右認定事実に徴すると、本件事故は原告ら主張の被告管理の市道の破損箇所に原告加野佳則が法定速度を超えて疾走させた事故車が落ち込んだため発生したと考えるのが相当である。

そして、右事故の結果、原告加野佳則が脊髄損傷・下顎骨骨折、肺損傷等の重傷を負つたことは〔証拠略〕によつて認められる。

三  そこで、被告の責任原因について考える。

本件事故現場が被告熊本市の管理する市道であることは当事者間に争いがないところ、「道路の構造は、当該道路の存する地域の地形、地質、気象その他の状況及び当該道路の交通状況を考慮し、通常の衝撃に対して安全なものであるとともに、安全かつ円滑な交通を確保することができるものでなければならない。」(道路法二九条)し、「道路管理者は、道路を常時良好な状況に保つように維持し、修繕し、もつて一般交通に支障を及ぼさないように努めなければならない。」(同法四二条一項)ことはいうまでもないから、本件市道に前記認定のような破損部分が存する以上、被告としては速やかに破損箇所を修繕するか―現に事故の翌日本件窪みは補修されている―あるいは破損箇所の付近等に標識を掲げて通行車両等の徐行を促す等して交通の危険の発生を未然に防止するための措置を講ずべきであつたというべく、右のような措置を欠いた本件道路は国家賠償法二条一項にいう公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつた場合に該当するものというべく、これに基因して本件事故が発生した以上、被告熊本市はその損害を賠償する責任がある。

四  進んで、損害額について検討する。

(一)  (原告加野佳則の損害)

1  本件事故によつて原告加野佳則がうけた負傷の部位、程度および加療の経過が原告ら主張のとおりであることは、〔証拠略〕によつて認められ、その治療のため、入院治療費として二、〇一七、二一〇円、付添費として三二七、二〇〇円、入院雑費として三五八、二〇〇円の各支出合計二、七〇二、六一〇円を要したことは当事者間に争いがなく、右損害は相当な損害と認められる。

2  また、〔証拠略〕によれば、同原告は昭和三〇年三月二〇日生れで、事故当時一六才の健康な独身男子で、熊本第一工業高等学校二年生に在学中であつたことが認められ、本件受傷により終生就労不能となる蓋然性の高い障害等級一級の身体障害者となつたことが〔証拠略〕によつて認められる。

よつて、本件事故がなければ同原告は高校を卒業し、一八才に達した昭和四八年四月から六七才まで四九年間にわたり就労可能であることが統計上予想され、その間、同原告が一般労働者として収入を挙げえるのであろう数額が年額一、五四二、二〇〇円で、その総額が七五、五六七、八〇〇円に達すること、右総額からライプニツツ式計算法により年五分の中間利息を控除した現価が二五、一九〇、〇〇〇円(一万円未満切捨)と計算上なることは被告の認めるところである。

してみれば、同原告の逸失利益は二五、一九〇、〇〇〇円と評価するのが相当である。

3  次に、過失相殺について判断する。

被告は、被告指示の窪みに原告加野佳則の運転する事故車が落輪したことを前提に過失相殺の主張をするが、本件事故は原告ら指示の窪みによつて発生したと認められること前記のとおりであるから、採用し難い。

しかしながら、本件事故の発生については、原告加野佳則においても顕著な過失があるから、損害額の算定につき斟酌するのが相当である。すなわち、本件市道は前記認定のとおり簡易舗装であつて、事故現場付近はもとより相当区間にわたつて破損による大小の窪みが点在する悪路であつたこと前記のとおりであるところ、〔証拠略〕によれば、同原告は昭和四六年四月九日に原動機付自転車の運転免許をうけ、本件事故の発生した同年六月二五日までの間に、昼間ではあつたが事故現場市道を四、五回位本件事故車に乗つて走行したことがあること。したがつて、本件市道の路面状況が悪いことを知悉していたことが認められる。してみれば、同原告としては、平衡を失し易い原動機付自転車を運転して夜間前記のような悪路を走行するに当つては、減速して運転の安全をはかるよう注意すべきであるのに、前記認定のように時速三〇キロメートルの制限速度をかなり超えて疾走したもので、かような無謀な運転が本件市道の瑕疵と相俟つて本件事故の原因となつたことが認められる。

これらの事実を勘案すれば、同原告の蒙つた前記治療関係費合計二、七〇二、六一〇円と逸失利益二五、一九〇、〇〇〇円との合計二七、八九〇、〇〇〇円(一万円未満切捨)については過失相殺により五分の三を減額し、五分の二に当る一一、一五六、〇〇〇円を損害として認めるのが相当である。

4  さらに慰謝料について考える。本件事故の態様、原告加野佳則の障害の程度、治療経過、入院期間、予後その他諸般の事情を考慮すると、同原告の精神的苦痛を慰謝するには、二、〇〇〇、〇〇〇円をもつて相当と認める。

5  以上の損害額を合計すると、一三、一五六、〇〇〇円となるが、これに本件訴訟を余儀なくされて原告らが原告ら訴訟代理人に支払うことを約した認容額の約一割に当る(右約定の事実は当事者間に争いがない)一、三〇〇、〇〇〇円を弁護士費用として相当な損害と認め、これを加算すると、被告が同原告に支払うべき損害賠償は総額一四、四五六、〇〇〇円となる。

(二)  (原告加野達夫、同加野美代子の損害)

一般に不法行為により身体を害された被害者の父母は、その子の生命を害された場合に比肩するかまたは右の場合に比して著るしく劣らない程度の精神的苦痛を受けた場合にのみ自己の権利として慰謝料請求権を有するところ、原告加野佳則は生涯回復の望めない重傷を蒙つたこと前記のとおりであり、原告加野達夫、同加野美代子各本人の供述によれば、同原告両名は本件受傷により原告加野佳則が死亡した場合に劣らないほどの精神的苦痛を受けたことが明らかである。

よつて、これを慰謝するには、諸般の事情を斟酌して、原告ら各四〇〇、〇〇〇円をもつて相当と認める。

これに、右認容額の一割に相当する弁護士費用を相当な損害と認めて加算すると、被告が同原告両名に支払うべき損害賠償は各四四〇、〇〇〇円となる。

五  よつて、原告らの本訴請求は、被告が原告加野佳則に対し金一四、四五六、〇〇〇円および弁護士費用を除く内金一三、一五六、〇〇〇円に対する本件事故の発生した昭和四五年六月二六日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、原告加野達夫、同加野美代子の両名に対し各金四四〇、〇〇〇円および弁護士費用を除く内金四〇〇、〇〇〇円に対する前記同様の遅延損害金を求める限度において正当であるが、その余は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 糟谷忠男)

逸失利益算出の基礎

収入金額(年額)賃金センサス昭和48年第1巻第2表

101,200×12+327,800=1,542,200

就労可能年数 18才から67才までの49年間

教育費控除 18才に達するまでの2年間1カ月10,000円の割合

中間利息控除 ライプニツツ式

ライプニツツ係数 16才 16,480(18,339-1,859)

計算式

1,542,200×16,480=25,415,785

10,000×12×1,859=223,080

25,192,705

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